かわべそうこのCurious Heart 

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すばらしきカニグスバーグ作品!

日本語訳と英語原書のタイトルの違いや、その作品の奥深さに惹かれ、文学研究にもってこいであり、掘り下げたくなる珠玉の作品ばかり。読み終えた後にこんな素晴らしい作家がアメリカに存在していたということ、その作品に出会えた奇跡に幸せを感じずにはいられない、E.Lカニグスバーグ。

 

80歳超えてから書かれたという晩年の作品である『レディムーンの記憶』を図書館で見つけた。たまたま見つける、というのがまた運命的な本との出会いを感じずにはいられない

ちなみに原題は『The Mysterious Edge of the Heroic World 』である。邦訳の題名との違いが鮮明だが、個人的には、邦題のほうがしっくりくる。翻訳した金原瑞人氏がすばらしい。氏のあとがきを先に読むと、カニグスバーグの作品を何度も何冊も読み、翻訳もしてきた彼が、これほど「すごい」と感嘆した作品は初めてだという。

ムーンレディの記憶

 

どれどれ・・・と読むと、冒頭も相変わらずアメリカンでかっこいいし、登場人物のキャラクターもとても魅力的。

それに加え・・・読み進めていくと、第二次世界大戦ユダヤ人迫害の歴史背景を絡ませ、それが現代の美術作品にリンクする。それだけでもすごい!とまさに感嘆してしまうが、私が感動するのは、その歴史的背景とともに、年老いてきた重要人物であるゼンダ―婦人の哀愁に満ちた人生とちょっとしたシーンである。

ゼンダ―婦人が現代社会になじめないところに、ガソリンスタンドがセルフサービスになってしまったことによって、この世は終わったの、と漏らすゼンダ―婦人のこのシーン。これまでの上流階級としてのプライドとアイデンティティが奪われたことをほのかに表現するカニグスバーグの文才が光る。

本棚の上に運命的に主人公の少年アメディオが見つけ出すヌード画の『レディムーン』の謎解きから、なぜいままでレディムーンを隠し、それでいてでも見つけてほしいと暗に示したのか、と問われて「私がどういう人生を送ってきたかわかる?」と言うかのような語りになるほど・・・とその瞬間に、わたしの中で、ゼンダ―婦人が実在する人物になったのだ。

 

最近、わたしも北欧に旧友と再会する旅に出て、気づいたことがある。

それは世界の歴史と情勢は現代の私達の日常生活に密接につながっている、ということだ。この作品では、第二次世界大戦に生きた先人たちとその子孫である現代に生きるわたしたちが『レディムーン』という芸術作品を通じてつながっていることが表現されている。

だから、美術館でクロード・モネゴッホの作品を見てたときにも、本当に最近なのだが、気づいたのだ。彼らが生きていた時代があって、その時代の作品を今、私が目の前で見ている、というのも運命的な時間なのだ。

 

私もこの時間を生きている、ということなのだ。